訳者解説(Lời Giới Thiệu)
訳者解説(Lời Giới Thiệu)
ハノイにて 1960年5月1日
ディンザーカイン(Đinh Gia Khánh 1924-2003),グェンゴックサン (Nguyễn Ngọc San 1935-)
◆嶺南摭怪の作者
訳者は、黎貴惇(レークイドン Lê Quý Đôn 1726-1784)と武芳㮛(ブーフォンデー Vũ Phương Đề 1698-1761)の資料を引用して、嶺南摭怪の作者(当時の伝説などから話を書いた)は、陳朝(1226-1400)の時代の陳世法(チャンテーファップ Trần Thế Pháp)としています。
後に、武瓊(ブークイン Vũ Quỳnh 1452-97)と喬富(キェウフー Kiều Phú 1447-1503?)が1492-93年頃この本を見つけて、編纂脚色しました。(しかし編者のこの2人 本名は何というのでしょうか?)
◆嶺南摭怪の成立からその後
嶺南摭怪は元々色々な伝説を集めた本ですが、その元本は残されていません。武瓊(ブークイン)と喬富(キェウフー)が編纂した本も残されていません。
しかし写本は残されていて、その後儒家(nhà nho)の学者たちが、新しい伝説などを付け加えていきます。現在まで9つの版、合計76の話が伝えられているそうです。
◆嶺南摭怪の構成
当時の文献を見ると嶺南摭怪の本の構成は2巻で、収録された話は22話だそうです。編者である武瓊(ブークイン)と喬富(キェウフー)の前書きと後書きによると収録された話は全部で23話です。1話だけそれぞれ違う話があります。
それで訳者は、9つの版の内、22の話が掲載されている「A33」と番号をふった1695年の版を、訳の元本としています。
◆嶺南摭怪の続編
武瓊(ブークイン)たちの版(15世紀)の後に、後の儒家(ニャーニョー)などが「乱雑に加えた」「続編」「続補」と言われる巻(16~19世紀)では、下記のように50以上の話があるそうです。
*迷信の類い 虎の神、閻魔大王、3本足の白犬など
*歴史上の人物 皋魯(カオロー)、ミエ(媚醯)
*不思議な話 望夫山の神、金牛の話など
◆歴史と嶺南摭怪の話
訳者によれば、本編の話を時期別に見るなら下記のようになります。
*歴史の早い時期 鴻龐(ホンバン)氏、董天(ドンティエン)王など
*北属期 越井伝、南詔など
*黎朝(1428-1527.1532-1789)、陳朝(1225-1400) 何烏雷(ハーオーロイ)など
16~18世紀以降の話や人物については、「続編」に書かれていて、その数は35になるそうです。
◆他の国々の文化の影響
訳者は、嶺南摭怪への他の国々の文化の影響も認めていて、それは以下のようです。
*越井傳 才鬼記?(宋朝)、南海古蹟鬼(元朝) 中国
*金亀傳 蜀泮(安陽王(アンズォンヴォン)) 紀元前にベトナムに移民した
*金牛傳 中国 巴蜀 ba thục
*インド、チャンパ
◆インド、チャンパの影響
「西瓜の種」、「タムカム(砕き米と米ぬか)」の話
インド文化の影響を受けた東南アジアの国々から来ています。
「夜叉王」の話
元はインドのラーマヤナでチャンパから来た話です。
ダカラタと言う人、十車王とも言う、弧精国の話です
◆国々が影響を受けあって、起源をたどるのが難しい話
「李翁仲(リーオンチョン)」は中国に行って名声を得ました。死後銅像が造られ、その像が翁仲(オンチョン)と呼ばれるようになりました。
「狐の精」は九尾の白い狐ですが、中国には明の時代の「封神演義(ほうしんえんぎ)」という本に、紂王の妻妲己(だっき)が九尾のきつねだったという話があります。
華南の少数民族や漢族では九尾の狐は妖怪だとしています。
ジャン・プジルスキ(Jean Przyluski 1885-1944 言語学者)は金の亀は東南アジアで共通の文化の宝庫であるとしています。
◆まとめ
嶺南摭怪の話は、外国の起源も持ちながら、民族の間で受け継がれ、ベトナム化したものです。
封建主義の脚色をされ儒家の影響にあるものの民族の人民の性質があります。
*鴻龐(ホンバン)氏、魚精、弧精、木精
民族の起源を語る
*董天王(ドンティエンヴォン)、李翁仲(リーオンチョン)、徵(チュン)姉妹、蘇瀝(トーリック)河、傘圓(タンビェン)山の話
北属時代の民族の抵抗と英雄を語る
*檳榔、バインチュン、西瓜、媚娘(マンヌォン)などの話
民族の生活と性質、風俗習慣の機微、豊かさを語る
*媚娘(マンヌォン)、越井、道行(ダオハイン)と明空(ミンコン)、曰烏雷(ハーオーライ)
迷信、仏教、儒教の影響が現れている
しかし嶺南摭怪は、勧善懲悪、正義を愛し不義を嫌い、益のある物を欲する、そのような民族の気持ちが表れている。
注 抜粋
*Lĩnh Nam chích quái 嶺南摭怪が正しく、 Lĩnh Nam thích quáiはあやまり 摭は集めるという意味
*烏雷(オーライ)、越井は8つの版、金亀、夜叉、魚精、南詔は7つの版、徴姉妹は6つの版、白鶴は5つの版に掲載されている。