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第2巻第22話 烏雷(オーロイ)の伝説 
●麻羅(マーラー)神が武氏(ブーティ)を妊娠させる
●烏雷(オーロイ)仙人から声色(せいしき)の才能を得る
●烏雷(オーロイ)、帝に頼まれて郡主のしもべになる
●郡主が烏雷(オーロイ)を愛し、策略で宮廷に上がる
●烏雷(オーロイ)明威(ミンウア)王に殺される

 不倫の子として生まれた黒い肌の烏雷(オーロイ)が、声と色の才能を得て、
王女たちと浮名を流し、ついには殺されるという話。
声色(せいしき 美しさ色情)が男子にとっても何よりも美しいのだという、
妙に感動的な話です。
 そしてこの話でわかるのは、昔の王女たちは、宮殿にいても
好き勝手に恋愛していたという事です。実にいいですね。
お父さんたちは喜んではいなかったようですが。

●麻羅(マーラー)神が武氏(ブーティ)を妊娠させる
 陳裕尊(チャンズトン)帝の紹豐(ティエウフォン)6年、麻羅(マーラー)村の人で鄧士瀛(ダンシーゾアイン)が安撫使(アンフーシー)の命を受け、北の国に渡りました。彼の妻の武氏(ブーティ)は家にとどまっていました。この村には社があり、麻羅(マーラー)神を祀っています。この神の精は夜な夜な士瀛(シーゾアイン)に変化し、体の形も、歩き方立ち方の姿勢も、まったく士瀛(シーゾアイン)そのままに真似をして、武氏(ブーティ)の部屋に入って彼女と通じ、雄鶏が鳴くと去って行きました。
 次の夜、武氏(ブーティ)はたずねました。「だんな様は北に使者として行ったのに、なぜ毎晩戻ってきて、日中は見えないのですか。」。神は嘘をついて「帝は私の代わりの者を差し向けたのだ。私をそばに仕えさせて、いつも碁を打つので、外に出られない。しかし、私は夫婦の情を忘れられず、あなたを愛するために、夜こっそりと帰って来ている。夜が明けたら急いで宮廷に行かなければならないから、長居はできない。」そして雄鶏が鳴くと去って行きました。武氏(ブーティ)はこれを疑問に思っていました。

●烏雷(オーロイ)が生まれ帝の寵愛を得る
 翌年、士瀛(シーゾアイン)が使いから戻ると、武氏(ブーティ)は妊娠して月が満ちていました。士瀛(シーゾアイン)は帝に訴え、武氏(ブーティ)は投獄されました。夜、帝の夢の中で、神人が来て言いました。「私は麻羅(マーラー)神で、武氏(ブーティ)を妻として子をなしたが、士瀛(シーゾアイン)に子を取られそうになっている。」帝は夢から覚め、翌日、牢獄の役人に武氏(ブーティ)を連れてくるように命じ判決を命じました。「妻は士瀛(シーゾアイン)に返し、子どもは麻羅(マーラー)に返す。」
 3日たって武氏(ブーティ)は黒い袋を生み、破れて1人の男の子が出てきました。肌は墨のように真っ黒でした。12歳になると、曰烏雷(ハーオーロイ)と名付けられました。色は漆のように黒く、肌は膏薬のように艶々していました。15歳になると、帝は彼を宮廷で召し抱え、寵愛し賓客のように扱いました。
●烏雷(オーロイ)仙人から声色(せいしき)の才能を得る
 ある日、烏雷(オーロイ)は西湖に遊びに出かけ、仙人の呂洞賓(ラードンタン)に会いました。呂(ラー)は聞きました。「小さな男の子よ、何が欲しいのですか。」雷(ライ)は答えました。「今の帝の天下が太平で、国家が無事で、富貴が浮雲のように見え、ただ声色(せいしょく 美しい色と声)に耽溺し、耳を喜ばせ目を楽しませることです。」洞賓(ドンタン)は笑って言いました。「あなたは声色を好むようだ。それで得る物と失う物は同等で、名は後世に残るでしょう。」そして烏雷(オーロイ)に口を開けさせました。烏雷(オーロイ)が口を開くと、洞賓(ドンタン)は唾を吐いて飲み込ませると、空を飛んで行きました。
 それ以来、烏雷(オーロイ)は字は識りませんが、聡明で頭の回転が速く、しばしば宮廷の人の冗談を言い、多くの詩や歌を作り、詩を吟じ歌を歌いました。詩歌を吟ずる声は、風や月を嘲弄し、美しい声は梁を巡り雲をとどめ、どんな人も驚かせました。婦女子は特に喜んで、誰もが彼と知り合いたいと願いました。
 帝は廷臣たちにこう命じました。「今後、烏雷(オーロイ)が誰かの家の女子を犯すのを見て、直前に捕まえるなら、一千貫の褒美を授ける。もし彼を殺す者がいたら、一万貫の賠償金を支払はなければならない。」帝がしばしば彼を従えて遊びました。

●烏雷(オーロイ)、帝に頼まれて郡主のしもべになる
 その頃、仁睦(ニャンムック)村に、高貴な血筋の郡主がいて、名は阿金(アーキム)といい、23歳になったばかりでした。夫は早く亡くなり未亡人で、彼女の美しさは世に比べるものがなく、帝はこれを喜び、彼女を求めましたが得られず、いつも怒っていました。それで試みに烏雷(オーロイ)に聞きました「お前に私を満足させる計画はないか?」烏雷(オーロイ)は答えました。「私は1年間の期間をいただきたく思います。もし戻ってこなかったら、それは失敗で、私は死んでいます。」そして、別れの言葉を言って去りました。
 彼は帰って服を脱ぎ捨て、泥に浸り、太陽と雨にさらされて醜くなり、布のズボンをはいて、馬を引く者のなりをしました。竹籠を1つ担いで、キンマの包みを入れて、郡主の家に向かいました。キンマの一包みを賄賂として門番の子どもに渡し、草をからせてくれるよう頼み、中に入りました。
 時は5月か6月、茉莉花の花が真っ盛りで、烏雷(オーロイ)はそれらをすべて刈り取り、竹籠に入れました。領主の婢(はしため)は、庭の花がすべてなくなっているのを見て、烏雷(オーロイ)を捕まえて縛るように命じ、主人が来て賠償するのを待ちました。
 3、4日立ちましたが、誰も彼を引き取りに洗われませんでした。婢(はしため)は尋ねました。「あなたは何家のしもべですか。なぜ主人が来てそれを賠償しないのですか。」烏雷(オーロイ)は答えました。「私は放浪者で、主人もなく、父母もなく、いつも人と物を運び、食べ物を求めて歌います。昨日、1人の役人が街の南門で馬をつないでいて、馬は空腹で草はありませんでした。馬の主が5文くれて草を刈るように言いました。草刈りでお金をもらって喜んで、茉莉花の花が何なのかわかりませんでした。今は払うものがないので、しもべとなって働きこの責任を償います。」
 門の外で烏雷(オーロイ)は留めらて1か月余りがたち、婢(はしため)は烏雷(オーロイ)が腹を空かせているのを見て、食べ物と飲み物を与えました。烏雷(オーロイ)は夜になると門番に歌を歌い、家の奴婢(ぬひ)たちも、中で働く女性たちも皆耳を傾けます。
 ある夜、日没後なのに明かりが点いていませんでした。郡主は暗闇の中に手探りで座して、近くに誰もいなかったので怒って、奴婢(ぬひ)たちを呼んで前に来させ、叱責し、鞭をつかんで打とうとしました。奴婢(ぬひ)たちはみな頭を下げて謝りました。「私たちは草刈りの奴隷の歌声を聞き、心は喜びのあまり、戻るのを忘れてしまいました。」郡主は罰を与えるのをやめてこれを不問にしました。
 その夏は暑く、真夜中に、郡主と婢たちは庭に座って、風に当たり月を眺めて、涼んでいました。突然、壁の向こうから、烏雷(オーロイ)の歌声が静かに聞こえてきました。天の調べさながら、この世のものとは思われない、精神は魅惑され、感情が感動させられ、愛と喜びがありました。郡主は奴婢(ぬひ)に命じて烏雷(オーロイ)をしもべとして家に入れ、そばにはべらせて親しみました。
 郡主は、しばしば烏雷(オーロイ)に憂さを晴らすために、詩を作り吟ずるように言いました。烏雷(オーロイ)はそれを受け心から仕え、郡主はますます彼を愛し信頼し、日中は自分の指揮(幕)の中で、夜は明かりをつける役としてそばに仕えさせました。

●郡主が烏雷(オーロイ)を愛し、策略で宮廷に上がる
 彼に歌うことを命じると、歌声が内外に鳴り響き、郡主は感動が過ぎて、憂鬱の病にかかってしまいました。3、4か月が過ぎ、病はだんだん重くなりました。婢(はしため)も長時間仕えて疲れて夜は熟睡してしまい、郡主が呼んでも誰も起きません。
 ただ烏雷(オーロイ)1人だけが仕えていて、郡主は情愛を抑えることができず、密かに言いました。「あなたは私のそばによりなさい。私はあなたの声のために病気になったのです。」そして烏雷(オーロイ)と情を通じ、病は治ってしまいました。
 情愛は日ごと深まり、郡主は彼の醜い姿を気にとめず、何を惜しむこともなく、すべての土地を烏雷(オーロイ)に与え農場をさせたいと願いました。烏雷(オーロイ)は言いました。「元々私には家がなく、今、天の仙人である郡主に出会い、それは私の幸福です。私は土地や金銀珠宝は欲しくありません。ただ願うのは郡主が宮廷に入り、金と翡翠がはめ込まれた冠をかぶることです。それを見ることができるなら死んでも安らかです。」
 (金と翡翠がはめ込まれた冠は先帝が与えたもので、宮廷に上がるときだけかぶります。彼女は烏雷(オーロイ)を愛しているので、何も惜しくありませんでした。)
 烏雷(オーロイ)冠を手に入れると、こっそり宮廷に行きました。帝はそれを見ると喜んで、すぐに郡主が朝廷に上がるよう命じ、烏雷(オーロイ)にもう一方の金と翡翠がはめ込まれた冠をかぶって隣に立つように頼みました。帝は郡主に聞きました。「あなたは烏雷(オーロイ)を知っていますか。」その時、郡主はとても恥ずかしくなりました。
 当時、国語(クォックグー)の詩がありました。

身を隠し、行ってしもべになることを求め
道を外れ天仙は雷(ロイ)を祝福する

 それ以来、烏雷(オーロイ)は天下に知られわたり、美しい王女たちはいつも烏雷(オーロイ)にからかわれました。
 国語(クォックグー)の詩が言います。

汚れた顔謙虚な表情、
街の人々は皆あなたを切望する
腕輪は黄金色に輝き、
世界が賞賛の眼差しを向けるのを待つ

 人々は烏雷(オーロイ)をからかうために詩を書きますが、美の誘惑のために彼を避けることができません。烏雷(オーロイ)しばしば宮廷の娘たちと通じましたが、帝が賠償を求めることを恐れて、誰もあえて倒すことをしませんでした。

●烏雷(オーロイ)明威(ミンウア)王に殺される
 その後、烏雷(オーロイ)は明威(ミンウア)王の長女と通じて、捕えられましたが、殺されませんでした。翌朝、明威(ミンウア)王は宮廷に来て、「昨夜、烏雷(オーロイ)私の家に忍び込みました。白黒がわからなかったので、殺しました。それで、私に何千貫を収めなければならないか教えてください。」 帝は烏雷(オーロイ)がまだ生きていることを知らずに言いました。「雷(ロイ)が殺されたのなら、私に何ができるだろう。」当時、徽慈(ヴィートゥ)皇后は明威(ミンウア)王の実の妹だったので、帝はくわしいことを聞きませんでした。威(ウア)王は戻って杖で雷(ライ)を打ちましたが、彼は死なず、王は杵を取っ手殴り殺しました。
 死にそうになったとき、烏雷(オーロイ)はクォックグー(口語)の詩を吟じました。

生と死は天に支配され、
男子は英雄として生きることを願う。、
声と色のために死ぬ事は喜びで、
病苦や糟糠のために死ぬのではない

 そして言いました。「昔、呂洞賓(ラードンタン)は私の声色はで、得るものと失う物は同等だと言いました。その言葉は真実です。」言い終わると彼は死にました。